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武田薬品工業(国内1位):シャイア―買収で売上高は約3.6兆円

アリナミンも同社の主力製品

2021年の売上高は他社を圧倒する約3兆6000億円を記録、医療用医薬品で国内1位、世界11位と競争の激しいグローバル市場でも確固たる地位を築いている武田薬品工業。同社の躍進のきっかけとなったのが、自社開発の前立腺がん治療薬「リュープリン」、消化性潰瘍治療薬「タケプロン」、高血圧治療薬「ブロプレス」、糖尿病治療薬「アクトス」などの画期的な新薬の開発です。

これらの自社開発品を海外市場に販売するために、1985年、アメリカのアボット社との合弁でTAPファーマシューティカル(TAP)を設立し、1997年以降、イギリスやフランスなどのヨーロッパ諸国にも相次いで子会社を設立していきました。

2000年以降は、動物薬事業をシェリング・プラウに売却したのを皮切りに、ビタミン事業をBASF社、化学品事業を三井化学、食品事業をキリンビールとハウス食品、農薬事業を住友化学、生活環境事業を大阪ガス、試薬・化成品・臨床検査事業を富士フイルム、CMC関連事業を武州製薬にそれぞれ売却するなど、医療用医薬品に特化した事業活動へと大胆な再構築を推進しました。

医薬品事業を強化するため、ヨーロッパ販売総会会社として武田ファーマシューティカルズ・ヨーロッパ(TPNA)を設立し、TAP社を分割して、NPNAと合併させました。現在では売り上げの約50%をアメリカ市場が、約20%をヨーロッパ市場が占めるまでに至り、売上に占める海外の構成比のほうが圧倒的に高くなっています。

武田薬品工業の国内・海外の売上高比率

2000年代は、糖尿病治療薬の開発候補品の獲得を目的として、バイオベンチャーのシリックス社を買収したり、パラダイム・セラピューティック社を買収して、中枢神経療育での共同研究成果の開発権を獲得。また「他社に比べて3年出遅れた」と指摘されるオンコロジー領域を強化するため、米バイオ医薬品メーカーのミレニアムを買収。さらにヨーロッパと新興国に強い販売網を持つスイスの製薬大手ナイコメッドを1兆円で買収しています。

2010年代以降も武田薬品のM&Aは続き、2012年には痛風治療薬Uloric(一般名:フェブキソスタット)を保有するURL Pharma社(アメリカ)、ワクチン関連技術を有するリゴサイト・ファーマシューティカルズ(アメリカ)、ブラジルの大衆薬大手のマルチラブ社をそれぞれ買収。2013年にはワクチン開発ベンチャーのインビラージェン(アメリカ)を買収。2017年にはオンコロジー領域の研究開発、販売を行うARIAD Pharmaceuticals社(アメリカ)を買収するなど、積極的なM&A攻勢でパイプラインの拡充を図ってきました。

武田薬品工業が医薬品業界に馴染みのない一般の方も驚かせたのは、約6兆8000億円でアイルランドの製薬大手シャイア―を買収したことです。その金額の大きさから大株主やOB、創業者一族から反対意見も多く、買収には紆余曲折があったものの、この買収により武田薬品工業の売り上げは倍増し、世界市場でも第8位(買収当時)の製薬企業となりました。

武田薬品工業の営業利益率の推移

近年の武田薬品工業は、「消化系疾患」「オンコロジー」「中枢神経」を重点領域と定めています。これらの領域における新薬の創出に向け、買収だけではなく研究開発体制の改革も進めており、神奈川県の湘南ヘルスイノベーションパーク(旧:湘南研究所)を拠点にカーブアウトやスピンアウトの手法(いずれも会社の事業の一部を切り出し独立させること)で、ファイメクス(タンパク質分解を作用機序とする新薬)、コーディア(抗がん剤)、スコヒアファーマ(低分子・中分子医薬品)、アーサム(ドラッグリポジショニング)、リボルナバイオサイエンス(アンメットメディカルニーズ)、SEEDSUPPLY(創薬スクリーニング)、Axcelead(創薬ソリューションプロバイダー)などの創薬ベンチャーを次々と立ち上げています。

2022年時点での主力製品は売上が5300億円を突破した「エンタイビオ(海外製品名:エンティビオ 潰瘍性大腸炎治療薬)」をはじめ、「ビバンセ(ADHD治療薬)」、「リュープリン(抗がん剤)」、「タケキャブ(胃潰瘍、十二指腸潰瘍の治療薬)」、「アジルバ(高血圧症治療剤)」、「ロトリガ(脂質異常症治療薬)」「ロゼレム(不眠症治療剤)」、「タクザイロ(遺伝性血管性浮腫治療薬)」などが挙げられます。

なかでも抗潰瘍薬の「タケキャブ」は、薬価引き下げやジェネリック医薬品の台頭で成長が鈍化している同市場で売り上げを伸ばしている唯一の先発医薬品です。従来の製品にない新しい作用機序と即効性に加えて、今後は剤形追加も見込まれるため、この数年で売上1,000億を越える製品に成長すると予測されます。

高血圧治療薬の市場では、ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)領域で最大の売上を誇る「アジルバ」が存在感を示しています。高い有効性と早朝及び夜間の血圧降下作用で差別化に成功した「アジルバ」は、後発医薬品が大半を占める同市場で売り上げが伸びている数少ない製品です。

武田薬品工業の主力製品(売上順)
医薬品名 対象領域 売上高(21年3月期:単位は億円)
エンタイビオ
(海外製品名:エンティビオ)
消化器疾患 4.293
免疫グロブリン製剤 血漿分画由来の免疫疾患 3.350
ビバンセ ADHD 2,715
アドベイト 希少血液疾患 1,285
ベルケイド がん 1,011
リュープリン がん 954
ニンラーロ がん 874
タクザイロ 遺伝性血管浮腫 867
タケキャブ 消化器疾患 848

糖尿病領域で「アクトス」や「ネシーナ」などのグローバル製品を保有し、糖尿病治療薬の市場で存在感を示していた武田薬品工業ですが、糖尿病治療薬4剤(ネシーナ錠、イニシンク配合錠、ザファテック錠、リオベル配合錠)を帝人ファーマに1,330億円で売却し、2020年度をもって同市場から撤退することを決定しました。いずれの製品もジェネリック医薬品の登場はまだ先ですが、シャイア―買収で「消化系疾患」「オンコロジー」「中枢神経」の新薬開発に注力する武田薬品工業にとって、糖尿病領域はもはや成長が見込めるコア戦力ではないと判断された格好です。

シャイア―を買収した武田薬品工業の狙いとは?(動画解説)

武田薬品工業のシャイア―買収の狙い、グロバール化を生き残る製薬企業の戦略について、武田薬品工業のコーポレートオフィサーである平手晴彦氏が解説した動画です。相対的にマーケットが縮小する日本市場に依存していてはジリ貧となる国内製薬企業の厳しい現状などが語られています。

武田薬品工業は高いブランド力も持つ大衆薬でも市場を牽引

武田薬品工業は医療用医薬品分野で5,600億円規模の売上を誇る一方で、年商の10%未満に過ぎないものの一般用医薬品の分野でも同社のブランド力は非常に強く、ビタミン剤の「アリナミン」や感冒薬の「ベンザ」を中心として幅広いラインナップを擁しています。近年は収録のビタミン剤に対する需要減退から苦戦を強いられていましたが、2011年は「アリナミン」シリーズの売上が増加に転じており、好調の兆しが見られます。

ブランド別で見ると、主力の「アリナミン」ブランドについては、内容を刷新したテレビCMと小売店の販促活動を連動させることにより新規顧客の取り込みに成功しており、錠剤の「アリナミンEXプラス」や「アリナミンA」、ドリンク剤の「アリナミンV」といった主力商品を中心に売り上げが増加しています。

感冒薬ブランドの「ベンザ」は総合感冒薬の「ベンザブロック」を主力とした展開であり、大正製薬の「パブロン」、第一三共ヘルスケアの「ルル」に続くブランドとして一定のシェアを確保しています。その他のブランドとしては、痔疾用の「ボラギノール」、禁煙補助薬の「ニコレット」、便秘薬の「タケダ漢方便秘薬」、関節痛治療薬の「アクテージ」などが挙げられ、いずれの薬効領域においても市場を代表するブランドとして高い支持を受けています。

10年前の武田薬品工業:ベクティビックスで国内の売上高が増加

2012年3月期の連結売上高は2年ぶりに1兆5000億円台を回復しました。武田薬品の最大製品である糖尿病治療薬「アクトス」は膀胱がんリスクの懸念などが影響し、売上は前年比24%の減少となりました。アメリカでは2012年8月に特許終了となるため、2012年度・2013年度も売上が大きく減少する見込みです。日本とヨーロッパでは既に後発品が参入していますが、DPP-4阻害薬「ネシーナ」への切り替えが進んでいます。

国内では糖尿病治療薬「ネシーナ」のほか、抗がん剤「ベクティビックス」、高血圧症治療薬「ユニシア」、不眠症治療薬「ロゼレム」など多数の新製品が売上に貢献しています。「ベクティビックス」の適応症である「KRAS遺伝子野生型の治療切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん」の対象患者は、先行発売されたメルクセローノの「アービタックス」よりも限定されますが、その分奉功率が高くなっており、KRAS遺伝子変異の遺伝子診断の啓蒙と組み合わせて販売促進に成功しています。同剤は2012年7月に全例調査が解除となったため、更なるシェアの拡大が期待されています。

後発品と競合する長期収載品では糖尿病治療薬「ベイスン」が前年比20%減少の60億円、抗潰瘍薬「タケプロン」が8%増加の60億円となっています。国内ではそのほか、アルツハイマー症治療薬「レニミール」、糖尿病治療薬アクトスとSU剤の配合剤「ソニアス」、アクトスとネシーナの配合剤「リオベル」が期待されています。

グローバル製品では「アクトス」に次ぐ大型製品である降圧薬「カンデサルタン」が、売上の大半を占める国内製品「ブロプレス」の売上増加により、世界売上は前年比でほぼ横ばいの2160億円、抗潰瘍薬「ランソプラゾール」はアメリカ製品「プレバシド」が特許切れの影響で売上減少が続いているものの、国内製品「タケプロン」が好調で世界売上1220億円となっています。

米国子会社ミレニアムの主力製品である多発性骨髄腫治療薬「ベルケイド」の売上は70億円増加して580億円となりました。同剤は2012年1月に追加製剤の皮下注製剤が承認され、2012年度も20%台の成長が続いています。

国内では鉄欠乏性貧血治療薬「リエンゾ」、ホジキンリンパ腫治療薬「アドセトリス」、短腸症候群(SBS)治療薬「レベスティブ」のヨーロッパでの承認を相次いで取得しました。ヨーロッパでは、あらに大日本住友製薬から導入した統合失調症治療薬「ルラシドン」とDPP-4阻害剤「SYR-322」を申請しました。

アメリカでは腎性貧血治療薬「オモンティス」を発売、さらに多発性骨髄腫治療薬「ベルケイド」の皮下注製剤も承認され、外来患者への東予が可能となったため市場規模が大きく拡大します。国内では7番目のARB製剤となる高血圧症治療薬「アジルバ」、高脂血症治療薬「ロトリガ」が発売されました。