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新薬の候補物質を探索する研究部門、治験を担当する開発部門

厳正な臨床試験が行われます

製薬企業にとって最大の使命は新薬の開発にあるといっても過言ではなく、どの製薬企業も研究開発部門に莫大な資金を投入して激しい開発競争を繰り広げています。

製薬企業が集中的に資本を投下しているのは、三大死因であるがん、動脈硬化症、心疾患にくわえ、長期使用が期待できる糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病などの分野です。また高齢化で患者数がさらに増加すると予測される認知症にも注力しています。

新薬開発の大まかなスケジュールは、国内外の研究論文や文献などの最新情報を頼りに独自のテーマを設定することからはじまります。テーマに即して化合物の創製を行い、スクリーニングで分類します。そして、特許申請の後、安全性を確認して臨床試験(治験)を行い、厚生労働省に製造販売の許可を申請します。許可が下りて、薬価基準に収載されて始めて発売となりますが、このステージに順調にたどりついても最低500億円の開発費用が投じられているとされています。近年は新薬の安全性を重視する姿勢が強く、多くの症例数を求めていることもあって、開発費用は年々伸びざるを得ない状況になります。

製薬企業の研究開発費ランキング 上位10社(2020年)
製薬企業名 研究開発費(億ドル) 主力製品
1.ロシュ 139.2 テセントリク、アバスチン
2.メルク(MSD) 135.5 キイトルーダ、ジャヌビア
3.ブリストル・マイヤーズ(BMS) 135.5 レブラミド、エリキュース
4.ジョンソン&ジョンソン 95.6 ステラーラ、ダラザレックス
5.ファイザー 94.0 イブランス、エリキュース
6.ノバルティス 89.8 コセンティクス、エンレスト
67.グラクソ・スミスクライン(GSK) 65.8 トリーメク、シングリックス
8.アッヴィ 65.5 ヒュミラ、イムブルビカ
9.サノフィ 63.0 デュピクセント、オーバジオ
10.イーライリリー 60.8 トルリシティ、ヒューマログ
(参考)武田薬品工業 41.4 エンタイビオ、ビバンセ
(参考)第一三共 20.6 リクシアナ、エンハーツ
(参考)アステラス製薬 20.4 イクスタンジ、プログラフ

そんな製薬企業の存亡にかかわる研究開発部門は、薬の候補物質を特定する「研究部門」と、臨床試験を行い有効性と安全性を確かめて、承認申請に必要なデータを収集する「開発部門」の2つに大別されます。

もう少し詳しく見てみましょう。研究部門は、分子生物学やゲノム研究などをベースにして、病気の予防や治療に効果がありそうな薬のシーズ(種)を見つけ出すことが業務の中心となります。

以前は、薬理作用のありそうな細菌を土中から探したり、植物を精製するなどしてシーズを発見してきましたが、研究が進んだ結果、自然界におけるシーズは既に出尽くしたと考えられるようになった今日では、既存のシーズを基に新たな化合物をつくり出す作業が繰り返されています。また、何かに効果がありそうな化合物を先に作り出し、それがどのような病気に効果を示すのかを実験を繰り返しながら調べるという方法も採られています。

研究部門は何万という既存の化合部と新薬の開発プロジェクトに合わせてデザインされた数百の化合物から、一定の生物学的特長を持つと評価された化合物(リード化合物)をより分ける「スクリーニング」を行います。そして、人間の健康と病気のメカニズムの研究をベースに、どの部分に作用する薬をデザインするかを決定します。次の段階では、リード化合物の中から、有効性と安全性で一定の基準をクリアした化合物が厳選され、前臨床試験(動物実験)が繰り返し行われます。

一方、開発部門では試験管や前臨床試験(動物での実験)で効果がある程度確認された製剤の臨床試験(治験)を行い、厚生労働省への承認申請に必要なデータを収集することが業務の中心のとなります。臨床試験の計画、医療施設や専門医、被験者の協力を得て、人体への有効性と安全性を厳しくチェックします。

また既存薬に新たな効能や適応症がありそうな場合にも、臨床試験が改めて実施されます。この取り組みも開発部門が担当します。最近では、鎮痛薬のアスピリンが不整脈の治療にも有効と判明したケース、花粉症の薬を服用すると眠くなることに注目し、同じ成分を睡眠改善薬に再利用したなどの例があります。このように既存の薬剤を別の用途に使用できるようにすることを効能追加(適応拡大)といいます。

重点領域は「がん」と「代謝性・循環器系疾患」

欧米のメガファーマと同様に、日本の大手製薬会社の多くが成長市場である「がん」を研究開発の重点領域に設定しています。数少ない成長領域と目される「中枢神経」も同様で、この両領域における新薬の研究開発は年々競争が激化しています。

プライマリーケアの領域においても、糖尿病をはじめとした代謝性疾患や循環器系疾患などは現在も多くの企業で重点領域となっています。なかでも糖尿病は市場の成長性が高いと考えられており、DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬といった新しい薬剤クラスが市場に投入されるなど、各社が研究開発に力を入れています。

DPP-4阻害薬は国内初となる「ジャヌビア(MSD)」が2009年に販売されましたが、2013年の「オングリザ(協和発酵キリン)」に至る4年間で既に7剤が上市されており、急速に市場が拡大しています。2013年以降、SGLT-2阻害薬が相次いで承認申請される見込みとなっていることから、更なる市場拡大と競争激化が予想されます。

また、市場が成熟期に入った高血圧や高脂血症の領域でも新薬の開発が続いています。2012年には武田薬品が7剤目となるARB「アジルバ」を、2013年に高脂血症治療薬「ロトリガ」を上市しました。成熟した高脂血症の市場とはいえ、これまで選択肢が「エバテール」しかなかったため、中性脂肪低下剤「ロトリガ」への医療現場からのニーズは十分にあると考えられます。

また、「アジルバ」に関しても、従来のARBよりも降圧効果が高いという医療現場の評価もあり、十分に市場浸透する可能性があります。このほか、エーザイが成人の肥満症に対する処方薬としては13年となる、抗肥満薬「BELVIQ」の承認をFDAから取得しました。

成熟期に入ったプライマリーケア領域においては、欧米のメガファーマの多くが注力度を下げつつありますが、依然として新薬を開発し医療現場に受け入れられる余地は十分にあると考えられます。医療現場から求められる「優れた製品性能」と「顧客ニーズを迅速に捉えて開発に繋げる力」は、日本の製薬企業が得意としてきたこともあり、グローバルなプライマリーケア領域における日本企業の存在感の向上に期待したいところです。