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ノバルティスファーマ(世界5位):幅広い疾患領域で有力製品を保有

白血病治療薬が主力製品

スイスのチバ、ガイギー、サンドの3社が合併して誕生したノバルティス・ファーマ。合併後は医薬品事業へと特化を進めており、2000年には農薬部門をアストラゼネカとの合弁企業へと移管しています。

先発薬を中心とする大手医薬品企業としては珍しく、ジェネリック医薬品事業にも積極的で、2005年にはドイツの大手ジェネリックメーカーであるヘキサルAGを買収して、自社のジェネリック事業会社サンドに経営統合しています。

2010年代前半までのノバルティスは、医療用医薬品、ワクチン・診断薬、ジェネリック医薬品、コンシューマーへルスケアの4事業から構成されており、2010年には眼科領域に特化した医薬品、医療機器、コンタクトレンズ関連製品を扱うスイスのアルコン社を買収し、傘下のチバビジョンと統合してアイケア事業を担う「アルコン事業部門」を誕生させるなど多角化を進めてきました。

しかし2015年、医療用医薬品、眼科領域、ジェネリック医薬品の各事業に経営資源を集中するために大規模な事業再編を行いました。具体的にはグラクソスミスクライン(GSK)との提携により、GSKが保有するオンコロジー領域の事業の買収、ワクチン事業(インフルエンザ関連を除く)を売却、GSKとの合弁会社「グラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア・ジャパン」を設立しOTC(一般用医薬品)事業を統合しました。また動物薬事業はイーライリリーへ売却しました。

さらに2017年には「ローコール(脂質異常症治療薬)」、「パーロデル(パーキンソン病治療薬)」、「ルジオミール(抗うつ薬)」などの長期収載品(14品目)をインドを本拠地とするグローバル製薬企業サンファーマに売却しました。

2019年には1兆円を投じてアメリカのバイオ医薬品メーカー「メディシンズ・カンパニー」を買収し、同社のコレステロール降下剤「インクリシラン(Leqvio)」を獲得。2021年には、重点領域の一つである眼科領域の強化を目的として、同領域に応用可能な遺伝子治療技術を持つ「Arctos Medical(スイス)」、同じく網膜疾患の遺伝子治療を開発する「Gyroscope Therapeutics(イギリス)」を買収しました。

2022年にはノバルティスのジェネリック専業部門でヨーロッパ最大の後発薬企業である「サンド」を分離し、独立上場することを決定しました。

2020年のノバルティスの売上は487億ドル。最大領域は全体の30%を占めるオンコロジー領域で売り上げは147億ドル。次いで多いのが免疫・皮膚領域の49億ドル。「ゾルゲンスマ(脊髄性筋萎縮症の遺伝子治療薬)」の好調に支えられた精神神経領域は43億ドル。「ゾルゲンスマ」は1患者当たりの薬価が約1億6700万円(!)と日本国内の新薬で初の「億越え」製品として議論を呼びました。

主要製品としては、ノバルティスの国内売上の約3分の1(1,200億円)を占めていた高血圧治療薬「ディオバン」は2013年に、また白血病治療薬「グリベック」は2016年、加齢黄斑変性症治療薬「ルセンティス」は2020年に特許切れを迎えています。「ルセンティス」は日本国内では千寿製薬が初のバイオシミラーとなる「センジュ」を、アメリカではサムスンバイオエピスが初のバイオシミラー「Byooviz」を発売しており、今後の売上減少は避けられない見通し。

今後は慢性心不全治療薬「エントレスト」、乾癬治療薬「コセンティクス」、先述したGSKとの事業交換でラインナップに加わった、メラノーマ治療薬「メキニスト」などが業績を支えることになります。なかでも国内初となる慢性心不全治療薬として2020年に発売された「エンレスト」は、翌2021年に高血圧症への適応拡大が行われ、グローバルな大型医薬品に成長することが期待されています。

ノバルティスは現在、放射性リガンド(薬剤)でがん細胞を直接攻撃する「放射性リガンド療法」を注力する新規技術の一つに挙げており、2018年には放射性医薬品メーカーのアドバンスト・アクセラレーター・アプリケーションズ(AAA:フランス)を買収。これによりノバルティスは神経内分泌腫瘍を対象とした放射性医薬品「ルタセラ」を獲得しました。また同じく放射性医薬品の開発を手掛けるバイオ医薬品メーカー「エンドサイト(アメリカ)」を買収し、前立腺がん治療のパイプライン(後に製品名:Pluvictoとして承認される放射性リガンド治療薬)を獲得しています。

ノバルティスの主力製品(売上順)
医薬品名 対象領域 売上高(21年3月期:単位は億ドル
コセンティクス 乾癬 40
ジレニア 多発性硬化症 30
エンレスト 慢性心不全、高血圧 25
タシグナ 慢性骨髄性白血病(CML) 17
ルセンティス 加齢黄斑変性症 15
タフィンラー / メキニスト メラノーマ 15
サンドスタチン 消化管ホルモン産生腫瘍 13
ジャカビ 骨髄線維症(MF) 13
ソレア 季節性アレルギー性鼻炎 13

10年前のノバルティス:特許満了に伴う主力製品が減収、抗がん薬へシフトが急務

2011年度の連結売上は前年度に連結したアルコンの買収効果もあり、前年比16%増の586億ドルとなりました。高分子医薬品の新製品が大きな増収要因となっており、白血病の分子標的治療薬「タシグナ」、「グリベック」は合計売上が54億ドルとなりました。

分子標的治療薬の加齢黄斑変性治療薬「ルセンティス」も高成長を続けており、34%増加の20億ドルに達しました。同剤は高い視力改善力があり、レーザー照射も不要なことから、高い評価を受けています。そのほか、田辺三菱製薬から導入した多発性硬化症治療薬「イムセラ」も実質初年度から5億ドルを突破しました。

同社最大の売上高を誇るアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の血圧降下薬「ディオバン」は欧州における特許満了と武田薬品の「プログレス」との競争も再び激しくなったことが影響して9%減少の57億ドルとなりました。特許満了の影響が最も大きかったのは乳がん治療薬「フェマーラ」で37%減少の9億ドルとなりました。

「ディオバン」については、同剤と利尿薬との配合剤である「コディオ」、ディオバンとカルシウム拮抗薬との配合剤「エックスフォージ」も順調に成長しており、ディオバン単剤の売り上げ減少を補っています。

白血病、加齢黄斑変性症、多発性硬化症などのアンメット・メディカル・ニーズの治療薬開発を他社に先駆けて行ってきたノバルティスですが、ファイザーの慢性骨髄性白血病(CML)治療薬「ボスリフ」、サノフィの多発性硬化症治療薬「オーバジオ」、バイエルの加齢黄斑変性症治療薬「アイリーア」などの競合品も登場しています。

2011年は新たにアルツハイマー型認知症治療薬の貼付剤「イクセロン」、長時間作用型β2刺激薬のCOPDの治療薬「オンブレス」、また世界的に注目される多発性硬化症治療薬「ジレニア」など4品目が承認されおり、今後同社がカバーする領域は更に拡大すると見込まれています。

最先端の高分子医薬品も市場での競合が始まっており、今後は効能や投与方法・製剤の追加といった製品力の拡大がシェア獲得のカギを握るとみられています。同社のmTOR阻害剤「アフィニトール」は腎細胞がん、膵神経内分泌腫瘍(pNET)の適応症に加え、欧州で乳がん、米国で良性腎臓腫瘍でも承認されました。追加された「ホルモン受容体陽性、HER2陰性の進行乳がん」は最も一般的な乳がんのため、市場規模は大きく拡大する見通しです。同剤はそのほか、胃がんやリンパ腫などへの適応拡大も期待されており、同社の主力製品へと成長すると予想されます。

降圧剤「ディオバン」の臨床試験データ操作疑惑の概要

有力医学誌から論文を撤回

ノバルティスファーマの高血圧治療薬「ディオバン」の市販後に実施された医師主導型臨床試験をめぐる問題は社会問題化し、厚生労働省が薬事法違反で東京地検に刑事告発する事態に至りましたが、ここで一連の流れを整理したいと思います。

この発端となったのは、ディオバンに心血管イベントの有意な抑制効果が認められたとして、ESC(欧州心臓病学会)に発表された「KYOTO Heart Study」(京都府立医科大学)の関連論文2本を、日本循環器学会誌とESC学会誌が「データ不備」を理由に撤回したことにあります。

同学会は当初、論文撤回の理由を明確にしていませんでしたが、論文を発表した京都府立医科大学が製造販売元のノバルティスファーマから多額の寄付金の提供を受けていたことを論文内で開示しなかったこと、同社の社員(当時)が身分を秘匿のまま臨床試験の統計解析担当者として臨床試験に参加していたこと(COI:利益相反)が明らかになり問題が表面化しました。

京都府立医科大学は、被験者のカルテと論文内のデータに一致が見られないことから、意図的なデータ操作が行われたことを報告しました。同様のデータ操作疑惑は、東京慈恵医科大学の論文「1JIKEI Heart Study」でも明らかとなり、血圧値データと論文が一部のカルテと異なることから、人為的なデータ操作が行われていたとする中間報告をまとめました。

東京慈恵医科大学の論文では、ノバルティスファーマによる寄付金の存在は明記されていましたが、統計解析者として派遣されていた同社の社員(当時)は、論文内で大阪市立大学の肩書きで掲載されていました。この中間報告を受けて英医学誌「Lancet(ランセット)」は掲載された論文を撤回しました。

厚生労働省はディオバンの相次ぐデータ操作報告を受け、2013年8月にディオバン検討委員会を設置し、上記の「KYOTO」「JIKEI」の2試験のほか、「VART」(千葉大学)、「SMART」(滋賀医科大学)、「NAGOYA Heart Study」(名古屋大学)を対象として、関係者の聞き取り調査を開始しました。検討委員会は同年9月、KYOTOとJIKEIの2試験の報告を踏まえ、責任はノバルティスファーマと関係大学の双方にあるとする中間報告をまとめました。

滋賀医科大学は2013年10月、SMART試験に関する調査結果を公表し、糖尿病性腎症の診断に用いる「尿中アルブミン/クレアにチン比(ACR)」のデータが論文とカルテで相違が見られることを明らかにし、意図的にディオバンが有利になるようにデータが操作されたことを否定できないという報告を行いました。

同年12月には、千葉大学がVART試験に関する内部調査の中間報告を行い、副次評価項目の一部でカルテデータが論文データと異なっていたことを明らかにしたうえで、恣意性を認めるには至らなかったこと、さらにノバルティスファーマからの寄付金に関するCOI(利益相反)開示が十分でなかったことを明らかにしました。

また同月には、名古屋大学がNAGOYA試験について、ノバルティスファーマの元社員が所属を開示せずに統計解析に関与したことで、COI(利益相反)違反があったとしながらも、恣意的なデータ操作はなかったという判断を中間報告で示しました。

KYOTOとJIKEIの2試験はデータ操作が行われていたことが明らかになっているものの、ノバルティスファーマが設置した第三者委員会による調査結果では、元社員による医師主導型臨床試験のデータの意図的な捜査や改竄を示す証拠は見つからなかったと公表するなど、問題の真相究明には至っていません。

厚生労働省は2014年1月、ノバルティスファーマと広告担当の同社社員を薬事法違反(虚偽・誇大広告)で東京地検に刑事告発しました。