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アストラゼネカ(世界10位):タグリッソほかオンコロジー領域の売上が好調

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イギリスに本社を置くアストラゼネカはオンコロジー、呼吸器、循環器、代謝・内分泌(糖尿病)を重点領域として製品を展開している世界第10位の製薬企業です。

従来、開発ラインの多くは低分子医薬品で占められており、イレッサ以降の分子標的薬の開発が停滞していましたが、2007年に米バイオテクノロジー会社メドイミューンを買収、2010年にはファイザーの研究所トップを引き抜くなど、抗体を含めた高分子医薬品の開発に力を入れています。

2014年には世界売上トップのファイザーから買収の提案(約12兆円)がありましたが、アストラゼネカは拒否しました。同年には代謝・内分泌の領域におけるブリストル・マイヤーズ(BMS)との協業を解消し、100%自社開発で取り組むことになりました。

近年、国際基準のGMPに準拠した新薬の承認プロセスの整備、先駆け審査指定制度による審査期間の短縮、所得水準の向上、医療保険制度の整備などをビジネスの好機と捉えて中国市場へ参入する製薬企業が増えています。アストラゼネカは国際治験にいち早く中国を取り込み、新薬「ロキサデュスタット(腎性貧血治療薬)」を欧米に先駆けて中国で投入するなど積極的な活動を展開しています。これが功を奏し、アストラゼネカは中国での売上比率が主要な製薬企業のなかで最も高い約20%となっています(2020年時点)。

2020年のアストラゼネカの売上は266億ドル。主力3製品として業績を支えてきたシムビコート(喘息・COPD治療薬)、クレストール(脂質異常症治療薬)、ネキシウム(抗潰瘍薬)に代わって最大の主力製品となったのが、タグリッソ(肺がん治療薬 一般名:オシメルチニブ)です。オンコロジー領域は免疫チェックポイント阻害剤のイミフィンジ(一般名:デュルバルマブ)、MSD(メルク)と戦略提携したPARP阻害剤のリムパーザ(一般名:オラパリブ)も売上を大きく伸ばしています。

これら3つの抗がん剤に支えられる形で、アストラゼネカの事業別構成比はオンコロジー領域が最大(約40%)となりました。この領域では第一三共と戦略提携したエンハーツ(一般名:トラスツズマブ・デルクステカン)も控えており、今後も一段と拡大する見通し。

そのほか代謝・内分泌領域ではフォシーガ(糖尿病治療薬)、循環器領域ではブリリンタ(抗血小板薬)が堅調です。

他のメガファーマ同様にアストラゼネカはM&Aによる重点領域の開拓、強化を積極的に行っており、近年では2021年に希少疾患領域への参入の足掛かりとするため、「アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Alexion Pharmaceuticals)」を約4兆円で買収しました。2022年にはオンコロジー領域における細胞療法の製品開発を加速させるため、アメリカのバイオテクノロジー企業「Neogene Therapeutics」を買収。さらに2023年1月には、心臓病・腎臓病の治療薬の拡充を図るため、アメリカの製薬企業「シンコル・ファーマ(CinCor Pharma)」を買収することで同社と合意したと発表しました。

アストラゼネカの主力製品(売上順)
医薬品名 対象領域 売上高(21年3月期:単位は億ドル
タグリッソ
(一般名:オシメルチニブ)
肺がん 43
シムビコート 気管支喘息 27
イミフィンジ
(一般名:デュルバルマブ)
肺がん、肝細胞がん、胆道がん 20
フォシーガ 慢性心不全 20
リムパーザ
(一般名:オラパリブ)
乳がん、卵巣がん、前立腺がんetc 18
ブリリンタ (抗血小板薬) 16
ネキシウム 胃潰瘍、逆流性食道炎 15
クレストール 高コレステロール血症 12
パルミコート 気管支喘息 10

ケンブリッジ(英国)に完成したアストラゼネカの研究開発ラボ(動画)

イギリスのケンブリッジ・バイオメディカル・キャンパス(CBC)に2021年に完成したアストラゼネカの研究開発センター(Discovery Centre 通称:DISC)。同センターを取り囲むように分子生物学の研究棟、バイオ医薬品の研究棟、幹細胞(ステムセル)の研究棟、臨床試験センター、ケンブリッジ大学、ケンブリッジ大学医学部付属病院 ケンブリッジ大学医学部アデンブルック病院など自社施設や協力機関があり、まさに新薬開発の中心地。

最大2,000人の研究開発者が働くことができる同センターでは、データサイエンスやAIを活用。AI技術を活用することで、新薬の候補となる化合物とその合成予測、さらには評価まで行うことで研究開発にかかる時間を大幅な短縮が可能になります。また実際に人に対して新薬候補を投与する臨床試験(治験)を実施する前の段階(前臨床試験)でその有効性と安全性をより正確に把握できるようになります。各疾患と遺伝子、化合物を結び付けたデータネットワークは研究者の認知バイアスに左右されない新しい医学的な知見を提供します。

10年前のアストラゼネカ:クレストール(脂質異常症治療薬)が順調

2011年の連結売上は336億ドル(2兆7,000億円)で、前年比1%の増加となりました。米国、欧州での売上が減少しましたが、その他の先進国市場、新興国市場では増加となりました。領域別に見ると、同社最大の30%を占める循環器系、それ次いで22%を占める精神・神経系がともに5%の売上増となりました。

主力製品の脂質異常症治療薬「クレストール」は、前回の薬価改定で7.6%の薬価引き下げとなったものの、前年比13%増加の66億ドルと好調をキープしています。LDLコレステロールの強力な低下作用や副作用が比較的少ないこと、動脈病変部位の改善効果や塩野義製薬との積極的なコ・プロモーション、新規臨床試験による心血疾患の罹患率・死亡率の減少など、メッセージの積極的な展開が功を奏したと思われます。

同剤は脂質異常症治療薬のなかではアステラス製薬ファイザーの「リピトール」に次いで市場2位にありますが、リピトールの特許が切れたことから、同系統の1位を奪取できるかが注目されます。アステラス製薬とのコ・プロモーションを展開している喘息治療用配合薬「シムビコート」も好調。

抗潰瘍薬「ネキシウム」は欧州で特許終了、米国では特許期間中であるものの競合品の後発品にシェアを奪われる形となり、売上は前年比12%減の44億ドルとなりました。抗がん薬では乳がん治療薬「アリミデックス」が後発品の影響が大きく、受け売上は53%減の8億ドルとなりました。

高齢化による前立腺がん患者の増加により、前立腺がん治療「カソデックス」は売上を増加させてきましたが、2009年からジェネリックが発売されたため、前年度から減収傾向となっています。しかし、2013年には前立腺がん治療薬としては初のOD錠(口腔内崩壊錠)となる「カソデックスOD」が発売されたことを受け、再び成長軌道に乗るかが注目されます。

2011年決算は好調に見えましたが、主力製品の統合失調症治療薬「セロクエル」も2012年に米国で特許終了となるため、経営陣は危機感を強めています。期待されていた新製品ですが、抗血小板薬「ブリリンタ」は米国心臓病学会(ACC)米国心臓協会(AHA)の共通ガイドラインに収載されるなどポテンシャルは大きいものの、発売2年目も1億ドルに届きそうになく、苦戦を強いられています。

糖尿病領域ではブリストル・マイヤーズとコ・プロモーションを展開しているDPP-4阻害剤「オングリザ」、GLP-1アナログ製剤「バイエッタ」、徐放製剤「ビデュリオン」に期待。2012年4月には、ブリストル・マイヤーズがバイエッタを開発したアミリン・ファーマシューティカルズを買収、同時にアストラゼネカもアミリン・ファーマシューティカルズに32億ドルを支払い糖尿病領域の提携を拡大しています。

2011年末に承認された乳がん治療薬「フォソロデックス」も閉経後乳がんを対象としたホルモン療法薬で、主要の成長や転移を防止するだけでなく薬剤耐性を防ぐ効果も持ち、今後が期待されます。そのほかの製品では、2013年に発売された世界初となる週1回投与の2型糖尿病治療薬「ビデュリオン(一般名:エキセナチド)」などの動向が注目されます。

抗菌・抗真菌薬の開発を手掛ける仏の製薬会社フォレスト・ラボラトリーズから導入した抗生物質「Zinforo」が2012年8月に、11月にはブリストル・マイヤーズと提携する糖尿病治療薬「Forxiga」が欧州で承認されました。

臨床試験ではKYK阻害剤の抗リウマチ薬「フォスタマチニブ」がフェーズ3、抗IL-13抗体「トラロキヌマブ(潰瘍性大腸炎)」、抗CD19抗体「MEDI-551(血液がん)」、抗IGF抗体「MEDI-573(固形がん)」が注目されています。