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住友ファーマ(国内7位):海外で特許が切れるラツーダ以降の新薬開発がカギ

カルシウム拮抗薬で有名

大阪の医薬品企業である大日本製薬と、総合化学企業である住友化学から独立した住友製薬が合併して誕生した「大日本住友製薬」は2022年に社名を変更して「住友ファーマ」となりました。

社名変更に伴い、オーソライズド・ジェネリック(AG)事業を展開してきた100%子会社の「DSファーマプロモ」も「住友ファーマプロモ」に社名が変わりました。

「オンコロジー」、「ニューロサイエンス(精神神経)」、「再生・細胞医薬」を重点領域としている住友ファーマの業績を牽引してきたのが、北米市場でブロックバスター(1,000億円以上を売り上げる製品)に成長した、統合失調症治療薬「ラツーダ」です。2011年は70億円に満たなかった「ラツーダ」の海外の売り上げは2019年には1,900億円を超え、ラツーダの成長と共に同社も2017年には過去最高の収益を記録しました。同時に海外売上比率も約60%まで上昇しました。

住友ファーマの国内・海外の売上高比率

2016年にはアメリカの子会社サノビオン(Sunovion Pharmaceuticals)が中枢神経領域の医薬品の研究・開発を行う、カナダのバイオベンチャー企業「シナプサス(Cynapsus Therapeutics)」を買収。獲得したパーキンソン病治療薬「キンモビ(一般名:アポモルヒネ塩酸塩水和物)」は同病を対象にアメリカ、カナダで承認された唯一の舌下投与フィルム剤となっており、欧州やアジアでもプロモーションを展開する予定です。

また2017年にはがん領域と血液疾患領域の医薬品開発を推進する、アメリカのバイオベンチャー企業「トレロ(Tolero Pharmaceuticals)」を買収し急性骨髄性白血病(AML)の治療薬「alvocidib」をパイプラインに追加しました。

住友ファーマの営業利益率の推移

2020年の住友ファーマの売り上げは5,159億円(経常利益778億円)でした。「ラツーダ」以外にも、てんかん治療薬「アプティオム」、イーライリリーから販売権を獲得した糖尿病治療薬「トルリシティ」も好調な売り上げを見せており、増加する長期収載品による収益の落ち込みもカバーしています。

中国市場はカルバペネム系抗菌薬「メロペン」が健闘、国内では高血圧治療薬「アイミクス」がジェネリック医薬品の参入と薬価引き下げの影響を受けましたが、ノバルティスと共同プロモーション&販売提携を展開している、糖尿病治療薬の「トルリシティ」と「エクメット / エクア」が好調です。

「トルリシティ」はノボノルディスクの「ビクトーザ」と共にGLP-1受容体作動薬の市場のおよそ90%を占める糖尿病治療薬。競合する「ビクトーザ」が1日1回の投与が必要なのに対し、「トルリシティ」は週1回の投与でよいため利便性が高く、同領域で売り上げ首位となっています。

しかし、そのラツーダにも北米市場で「パテントクリフ(特許の崖)」が迫っており、近い将来ジェネリック医薬品の参入により売り上げは落ち、北米頼みの感が強い住友ファーマ全体の収益を低迷すると予想されています。

住友ファーマにとって誤算だったのが、ラツーダは日本での統合失調症に対する治験で期待した結果が得られなかったため、国内の発売が2020年にまで遅れたことです。また2012年に買収したアメリカのボストン・バイオメディカルが保有する抗がん剤「ナパブカシン」の結腸直腸がんを対象とした治験(フェーズ3)が失敗に終わり、他のがんを対象とした治験も全て中止となったことです。ポスト・ラツーダとして1000億円超えを狙える医薬品、さらには同社が重点領域として位置付けるオンコロジー分野での結果が期待されていただけに残念な結果となりました。

明るい兆しは、2019年に3,200億円を投じてバイオ・ベンチャーのロイバント・サイエンシズ(Roivant Sciences)と提携した際に株式を取得した5つの子会社のパイプラインです。なかでも2022年10月に完全子会社化したバイオ医薬品企業マイオバント社から獲得した前立腺がん治療剤「オルゴビクス」、子宮筋腫治療薬「マイフェンブリー(マイオバントとファイザーの共同販売)」は今後の適応拡大で大型製品への成長が見込めるため、ラツーダの特許切れ後の住友ファーマを牽引するグローバル製品として期待されています。

また同じく完全子会社化したバイオ医薬品企業ユーロバント社から獲得した「ジェムテサ」は、アメリカ市場で10年ぶりに登場した過活動膀胱(OAB)治療薬です。ジェムテサは、前立腺肥大症(BPH)および過敏性腸症候群(IBS)による疼痛の治療薬としても治験が進んでおり、世界市場におけるピーク時売り上げを500億円と見込まれています。

住友ファーマの主力製品(売上順)
医薬品名 対象領域 売上高(21年3月期:単位は億円)
ラツーダ 非定型抗精神病 2,089
エクア / エクメット 糖尿病 401
トルリシティ 糖尿病 339
メロペン 尿路感染症 299
ブロバナ 慢性閉塞性肺疾患(COPD) 291
アプティオム てんかん 257
オトレリーフ パーキンソン病 162
リプレガル ファブリー病 138
メトグルコ 糖尿病 91

住友ファーマへ社名変更した際の企業ブランドCM

大日本住友製薬から住友ファーマへ社名変更した時のCM(30秒)。人類の過去の挑戦と創薬の挑戦を「フロンティア・スピリット」という共通項で重ね合わせた見応えのあるCMです。「この世には助けなければならない人がいる。なんとかしたい。だから、挑む。」というフレーズもさることながら、BGMも素晴らしいですね。製薬企業という枠を超えて、最近見たCMのなかで一番心に響いた動画でした。

10年前の住友ファーマ:国内医薬品事業の主力製品は長期収載品が多く苦戦

2012年3月期における大日本住友製薬の連結売上高は、前年比8%減の3,500億円となりました。国内では戦略3品目が好調で、高血圧症治療薬「アバプロ」が前年比29%増の107億円、統合失調症治療薬「ロナセン」が10%増の98億円、末梢循環改善薬「プロレナール」が4%増の155億円となりました。

新製品は、血糖降下剤「メトグリコ」が既存製品「メルビン」との合計で前年比83%増の85億円、パーキンソン病治療薬「トレリーフ」が44%増の53億円となっています。

一方、主力製品だったカルシウム拮抗薬(CCB)の高血圧治療薬「アムロジン」は特許終了の影響とARB-CCB合剤の市場参入による減収に歯止めがかからず、前年比13%減の360億円、カルバペネム系抗生物質「メロペン」、抗アレルギー薬「エバステル」など、長期収載品となったかつての主力製品は大きく減少しています。消化管運動機能改善薬「ガスモチン」も2012年12月に後発品が参入したため、国内では苦戦が予想されます。

北米セグメントでは、米国子会社サノビオンが新発売の非定型抗精神病薬「ラツーダ」が初年度に69億円売り上げたものの、既存の主力製品が後発品の影響を受けて苦戦が続いています。特許が終了した短時間作用型β作動薬の喘息治療薬「ゾペネックス」は前年比13%減少の50億円、催眠鎮静薬「ルネスタ」は特許が2014年まで有効ですがサノフィの競合品「アンビエン(日本名:マイスリー)」の後発品が影響して前年比22%減の421億円と大幅な売上減となりました。

大日本住友製薬の業績を支えているのが、1993年に住友製薬がファイザー社からライセンスインとして発売したカルシウム拮抗薬「アムロジン」です。法律上は、大日本製薬が存続会社となっているため、住友製薬が保有する販売権を新会社に引き継げるかどうかが裁判になりました。それほどアムロジンへの依存が大きかったのです。

循環器・糖尿病領域に強みを持つ同社ですが、近年は「アムロジン」をはじめとする主力製品の特許切れが相次いでいるため、精神神経領域、オンコロジー領域でのシェア拡大に向けて新薬の研究開発を進めています。

国際戦略品として大型化が期待されているのが、統合失調症薬「ラツーダ」です。従来の統合失調症薬よりも副作用が少なく、服用しやすい(1日1回投与で、漸増投与が不要)などの特徴がある同剤は、2011年からアメリカで販売開始し、日本国内でも2016の販売を予定しています。

同社では2015年までに全社売上の17%を同剤で占め、さらに2018年までにブロックバスター入りを果たすことを目標としており、その達成に向け米サノビオン社の買収、同剤専門のMR部門を新設するなどの戦略を展開しています。

国内では「アムロジン」と「イルベサルタン」の合剤の高血圧治療薬「アイミクス」が承認され、統合失調症治療薬「ルラシドン」と糖尿病合併症治療薬「ラニレスタット」の2品目がフェーズ3の段階にあります。

米国子会社サノビオンは抗てんかん薬「ステデサ」のFDA再申請を2012年8月に提出し、同月には「ラツーダ」の双極I型障害うつの効能拡大も申請しました。効能追加試験は「ステデサ」の単独療法と、「ラツーダ」の双極性障害メンテナンスおよび大うつがフェーズ3に進んでいます(追記:2013年に承認取得)。

2012年に買収したボストン・バイオメディカルでは結腸直腸がん治療薬「BBI608」がフェーズ3準備段階にあります。欧州では「ルラシドン」のEMA承認申請を導出先の武田薬品が2012年10月に提出しています。

そのほか、iPS細胞の研究を京都大学と協力して行っており、がん幹細胞に高い効果を示す新薬の開発に注力しています。