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イーライリリー(世界12位):糖尿病治療薬のトルリシティとヒューマログが主力

高分子シフトが同社の課題

抗うつ薬「プロザック」で築いた基盤を築き、ブロックバスターの「ジプレキサ」、「サインバルタ」の開発につなげ、精神化領域で世界トップを走ってきたイーライリリー

過去10年で重点領域の選択と集中を行った結果、今日のイーライリリーの事業別構成比は内分泌領域(糖尿病)が売り上げの約50%を占めており、次いでオンコロジー領域領域(約20%)、免疫領域(約10%)となっています。

多くの糖尿病患者の治療の柱となるインスリン製剤の国内市場は、イーライリリー、サノフィ、ノボノルディスクの3社が99%を占有しています。

2019年、イーライリリーはオンコロジー領域に注力するため、アメリカのロクソ・オンコロジー(Loxo Oncology)を約1兆円で買収統合しました。同社はゲノム定義されたがん患者向け治療薬を専門としたバイオ医薬品企業で、PET融合遺伝子陽性の肺がんと甲状腺がん治療薬「LOXO-292」の開発に期待が寄せられています。

イーライリリーは、中国における治験や新薬承認プロセスが世界標準でなかった頃から中国での医薬品開発を進めており、抗がん剤「フルキンチニブ」はアメリカ市場に先駆けて中国で販売するなど中国重視の方針を打ち出しています。2019年には中国のバイオ医薬品企業「イノベント・バイオロジクス」と免疫チェックポイント阻害薬「TYVYT」を共同開発しています。

2020年度の売上は245億ドル。アメリカのFDA(アメリカ食品医薬品局)が、コロナ抗体医薬「バムラニビマブ」に緊急使用許可を出したこともあり、前年比で2ケタの伸びを示しました。最大の主力製品となった糖尿病治療薬「トルリシティ」が52億ドルと、2位の「ヒューマログ」の約2倍の数字を売上げ、同社の大黒柱に成長しました。同じく糖尿病治療薬の「ジャディアンス」の売り上げも2ケタの伸びを見せています。

オンコロジー領域では、抗がん剤の「アリムタ(一般名:ペメトレキセド)」と「サイラムザ(一般名:ラムシルマブ)」、「ベージニオ(一般名:アベマシクリブ)」が堅調な一方、循環器領域では「シアリス」が特許切れによる後発医薬品の登場が響き、売り上げが落ち込んでいます。免疫領域は乾癬治療薬「トルツ」と関節リウマチ治療薬「オルミエント」が支えています。

国内の抗うつ薬市場では、同社のかつての主力製品「サインバルタ」が現在でも年間600億円を売り上げてシェア1位(35%)を維持しています。しかし2021年には、沢井製薬、東和薬品、第一三共ケミファほか17社がサインバルタ(デュロキセチン)のジェネリック医薬品の承認を取得しており、今後の国内市場での大幅な売上減は必至です。

イーライリリーの主力製品(売上順)
医薬品名 対象領域 売上高(21年3月期:単位は億ドル
トルリシティ 2型糖尿病 52
ヒューマログ 糖尿病 26
アリムタ
(一般名:ペメトレキセド)
肺がん 23
トルツ 乾癬 18
ジャディアンス 2型糖尿病 12
フォルテオ 骨粗鬆症 10
サイラムザ
(一般名:ラムシルマブ)
胃がん 10
ベージニオ
(一般名:アベマシクリブ)
再発性乳がん 9
Bamlanivimab COVID-19 9

イーライリリーのR&D(研究開発)を支える最新のラボラトリー(動画)

イーライリリーがイギリスのケンブリッジに新設した新薬の研究開発ラボラトリー。天文学的な組み合わせが存在する新薬候補(化合物)の実験を完全オーとメンション化。売上高に占める研究開発費で世界トップクラスの同社だけあって、近未来をテーマにした映画から飛び出したような最新設備で埋め尽くされた施設は圧巻です。

10年前のイーライリリー:難航している高分子医薬品の開発が最大の課題

イーライリリーの最大製品は統合失調症、双極性障害、大うつ病など幅広い適応症を持つ抗精神病薬「ジプレキサ」です。2011年度の売上は米国特許が終了した影響で、2010年のピーク時に比べて8%少ない46億ドルとなりました。

その一方で、抗うつ薬「サインバルタ」が前年比20%の増加で42億ドルの売上を記録し、ジプレキサの減少分をカバーする形となりました。精神・神経領域では、小児のADHD(注意欠陥・多動性障害)治療薬「トラテラ」が6億ドルを越すなど、好調を維持しています。

伝統的に同社の強みである糖尿病領域も好調で、速効・持続・中間型など幅広い選択が可能なインスリン製剤の「ヒューマリン」は15%の増加で13億ドル、超速攻型のインスリン製剤「ヒューマログ」も15%増加して24億ドルとなりました。

服薬利便性を高めたビスホスホネート製剤、副甲状腺ホルモン製剤、ミタミンD3化合物などの新薬の登場で市場が拡大している骨粗鬆症治療薬では、2010年に発売された「フォルテオ」が好調。同剤は骨形成促進作用を有する副甲状腺ホルモン(PTH)製剤であり、適応は骨折の危険性の高い骨粗鬆症となっています。

フォルテオは自己注射が可能(国内初)で通院を必要としないこと、従来の骨吸収抑制剤と異なり骨芽細胞の働きを高める作用がある点が医師と患者の双方から高い支持を得ています。2012年度の売上も前年比129%増を記録しており、今後の大型化が期待されています。また、閉経後の骨粗鬆症治療薬「エビスタ」も第一選択薬として市場でのシェアを拡大しており、骨粗鬆症領域での同社の存在感は更に高まると思われます。

第一三共と提携する抗血小板薬「エフィエント」は前年比増も期待を超えるには至っておらず、循環器系でほかの主力製品を持たないことが少なからず影響しているものと思われます。抗がん薬では「ジェムザール」が特許終了の影響で売上が61%と大幅に減少し、5億ドルを割り込みました。代謝拮抗薬の肺がん・中皮腫治療薬「アムリタ」は11%増加の25億ドルとなりました。

イーライリリーの主力であるインスリン関連製品は生物学的製剤ですが、抗体医薬・分子標的とは一線を画しており同社のラインナップでは「アービタックス」が唯一の高分子医薬品となっています。同社にとって製品の高分子シフトは今後の成長のカギを握る戦略上の重要課題となっていますが、高リウマチ薬とアルツハイマー症治療薬の抗体医薬開発がともに不調に終わっています。

抗アミロイド抗体のアルツハイマー症治療薬「ソラネズマブ」は追加の臨床試験が必要となり、目標であった2013年中の申請は困難となりました。経口JAK1-2阻害剤の抗リウマチ薬「バリシチニブ」もフェーズ3で難航しています。試験米バイオテクノロジーのイムクローンシステムズが開発した抗LgG1抗体「ラムシルマブ」が胃がん、大腸がん、乳がん、肺がんなど幅広いがんを対象にフェーズ3の段階にあります。

ベーリンガー・インゲルハイムと包括提携を行っている糖尿病領域では、2011年に承認されたDPP-4阻害薬「リナグリプチン」に続き、フェーズ3段階のSGLT-2阻害剤「エンパグリフロジン」を共同開発しています。