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MSD(メルク:世界6位):適応拡大でキイトルーダの売上は年間2兆円へ

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医薬品事業と動物薬事業を展開するメルクは1950年代から多国籍化を進めていきました。日本では、萬有製薬との合弁会社として日本メルク萬有を設立し事業を展開。その後は合併先である萬有製薬の子会社化を進めながら、日本メルク萬有の統合を進め、日本での事業活動を萬有製薬に一本化しました。2004年には同社の全株式を取得して、完全子会社化。2010年に万有製薬とシェリング・ブラウ社と統合したため、MSD (メルク)となりました。

長年にわたって、「ジャヌビア(糖尿病)」、「ガーダシル(HPVワクチン)」、「レミケード(関節リウマチ)」、「ゼチーア(高脂質)」などの画期的新薬の研究・開発を中心とする医療用医薬品事業に特化した事業活動を展開しており、連結売上の構成比は医療用医薬品が90%、動物薬が10%となっています。医療用医薬品の内訳は最大の売上を占めるオンコロジー領域をはじめ、内分泌(糖尿病)領域、ワクチン部門、病院部門などとなっています。なお一般用医薬品の事業は2014年にドイツの製薬大手バイエルに売却しています。1990年代以降はバイオベンチャー企業の買収や提携にも積極的に行っています。

また非営利事業ではありますが、医学書のメルク・マニュアルを出版し、1899年の初版以来、多くの医療関係者に愛読されています。また、一般患者・家庭向けのメルク・マニュアル家庭版も合わせて出版しています。

2020年のMSD(メルク)の売上は480億ドル。コロナの影響で病院部門が大幅に減少、重点領域である糖尿病領域も、主力製品の一つである、糖尿病治療薬「ジャヌビア」のアメリカでの薬価ダウンにより収益が低下しています。

これらの売上減少分を補って余りあるのが、今や>MSD(メルク)の最大の主力製品となった免疫チェックポイント阻害剤「キイトルーダ(一般名:ペムブロリズマブ)」です。免疫チェックポイント阻害剤(ICI)とは、がん細胞が免疫細胞の攻撃から身を守るために構築するメカニズムを阻害する作用機序を持つ抗がん剤です。メルクの2020年の売上480億ドルのうちキイトルーダが144億ドルを稼ぎ出しており、これにより同社の最大領域はワクチン部門からオンコロジー領域となりました。

「キイトルーダ」は単独投与による非小細胞がんの一時治療、「レンビマ」との併用による子宮内膜がん、「インライタ」併用による腎細胞がんなどの適応拡大が相次いで承認され、小野薬品工業の「オプジーボ」と並んで免疫チェックポイント阻害剤の看板製品として市場をリードしています。

研究部門でも2021年にFDA承認を取得した11件のうち、「キイトルーダ」の適応拡大が8件となっており、今後も大きく売り上げを伸ばすことは確実です。しかし、非小細胞肺がん(NSCLC)のファーストラインとして「オプジーボ」との競争の激化、相次ぐ薬価の引き下げなど、成長を鈍化させる要素もあります。さらに「キイトルーダ」は2028年頃には特許切れを迎え、早ければ同年中にバイオシミラー(BS:先行バイオ医薬品の後継品)が登場することが予測されます。

そのほかワクチン部門では、主力製品の子宮頸がんワクチン「ガーダシル」と肺炎球菌ワクチン「ニューモバックス」が堅調でこちらも売上が増加となっています。

メルクは2020年、「ベロスバイオ(Velos Bio)」を買収し、抗体薬物複合体(ADC)のパイプラインを獲得。2021年には、自己免疫疾患および炎症疾患の治療薬を手掛けるバイオ医薬品企業「パンディオン・セラピューティクス(Pandion Therapeutics)」、高血圧領域でパイプラインを保有するバイオ医薬品企業「アクセレロン・ファーマ(Acceleron Pharma)を買収。2022年には、血液がん治療薬の研究・開発を行うバイオ医薬品企業「イマーゴ・バイオサイエンシズ(Imago BioSciences)」、バイオ医薬品製造開発受託機関「Exelead」を買収しており、重点領域の製品ラインナップの拡充と「キイトルーダ」への依存軽減を図っています。

メルク(MSD)の主力製品(売上順)
医薬品名 対象領域 売上高(21年3月期:単位は億ドル
キイトルーダ
(一般名:ペムブロリズマブ)
複数のがん 144
ジャヌビア / ジャヌメット 糖尿病 53
ガーダシル (子宮頸がんワクチン) 39
ProQuad (MMRワクチン) 19
ブリディオン (筋弛緩回復薬) 12
ニューモバックス (肺炎球菌ワクチン) 11
アイセントレス HIV感染症 9
シンポニー 関節リウマチ
潰瘍性大腸炎
8
ゼチーア / バイトリン 脂質異常症 7

10年前のMSD(メルク):糖尿病治療薬「ジェヌビア」が急成長

2011年度の連結売上高は480億ドル(3兆8000億円)となり、シェリング・ブラウとの合併効果で大幅増収となった前年度に比べて4%増となりました。製品別にみてみると、DPP-4阻害薬の糖尿病治療薬「ジャヌビア」、同剤とメトホルミンの配合剤「ジャヌメット」、抗HIV薬「アイセントレス」、子宮頸がん予防ワクチン「ガーダシル」の売上が大きく伸びています。

「ジャヌビア」はDPP-4阻害薬として最初の上市で、小野薬品の「グラクティブ」と並行販売を展開しており、効果も高く評価されています。ノバルティス・ファーマの「エクア」、武田薬品の「ネシーナ」など、後続のDPP-4阻害薬が相次いで上市されるなかでも、併用療法などのプロモーションを展開した高い成長を実現しています。2011年度の「ジャヌビア」と「ジャヌメット」の合計売上は47億ドル(前年比40%増)となっています。2011年5月にα-Gl薬併用の適応追加を取得、さらに同年9月にインスリンとの併用が適応追加となり、より一層の売り上げが期待できます。

喘息治療薬「シングレア」も1日1回投与、2週以上の処方が可能、即効性などを特徴として売上は前年比10%増の55億ドルと順調に推移していますが、2012年に特許が終了します。今後、同社の最大製品は「シングレア」から「ジャヌビア」

アレルギー性鼻炎治療薬「ナゾネックス」、脂質異常症治療薬「ゼチーア」の売上も増加しており、後者はバイエルとのコ・プロモーションを展開しており、スタチン系以来20年ぶりの新規作用機序を持つため、スタチン系成剤との併用などの使われ方をしています。

抗リウマチ薬「レミケード」は27億ドルでほぼ横ばいでしたが、次世代製品の「シンポニー」は2億ドルを超え、2品目の合計29億ドルは前年比4%の増加となっています。筋弛緩回復薬「ブリディオン」も順調な伸びを見せています。

アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の降圧薬「ニューロタン」は、国内で最初に上市されたARBですが、武田薬品の「プログレス」、ノバルティス・ファーマの「ディオバン」、第一三共の「オルメテック」など競合も多く、競合他社が資本を集中させていることから苦戦が強いられています。

そのほかの製品では脂質異常症の治療薬「リポバス」、インターフェロン製剤「ペグイントロン」、ACE阻害薬の降圧薬「レニベース」が減少しています。2012年1月にキャンディン系抗真菌薬「カンサイダス」、傾向ロタウイルスワクチン「ロタテック」が承認され、感染症領域に対し新薬を複数投入しており、今後が期待されています。

2011年10月にmTOR阻害剤の肉腫治療薬「リダフォロリムス」を申請していますが、販売中の主力製品と同様に開発パイプラインも低分子医薬品が中心となっており、同年5月に承認されたC型肝炎治療薬「ボセプレビル」以降、主要な抗体・分子標的の高分子医薬品がないのが同社の課題です。

2013-14年にFDA申請を予定している6品目も、カテプシンK阻害剤の骨粗鬆症治療薬「オダナカチブ」、不眠症薬「スボレキサント」、高脂血症治療薬「トレダプティブ」、トロンビン受容体(PAR-1)拮抗剤の抗血小板薬「ボラパクサール」、「ガーダシル」の後継品となるパピローマ・ウイルスワクチン「V503」などであり、低分子医薬品となっています。