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ロシュ(世界2位):傘下の中外製薬が好調、オンコロジー領域の研究開発に注力

抗体医薬品に強い

分子標的薬と体外診断用医薬品(コンパニオン診断薬)を同時開発し、分子レベルの病態解明がもたらす個別化医療で業界をリードしてきたロシュ(本社:スイス)は、4年連続(2017~2020年)でファイザーを抑えて売上高(約6兆7000億円)世界トップとなった製薬企業です。

体内で作られる物質(抗体、ホルモン、インスリン等)を有効成分として、遺伝子組換えや細胞培養などの技術を応用して製造される医薬品を「バイオ医薬品」と言いますが、ロシュは2009年にバイオ医薬品最大手のジェネンテックを完全子会社化して、バイオ医薬品への集中を加速させています。2002年に買収した中外製薬が日本国内で売上高1兆円を超える(2022年12月期予測)までに成長。中外製薬は国内市場で「ロナプリーブ(新型コロナウイルス感染症治療薬)」などが好調で、ロシュグループの中でも抜けた存在となっています。

ロシュは医療用医薬品の売上高の約60%が「ハーセプチン」や「アバスチン」、「アクテムラ」、「リツキサン」(これらも全てバイオ医薬品です)などの抗がん剤で占められており、他のビッグファーマと比較してオンコロジー(がん)領域の治療薬に強みを発揮しているのが大きな特徴です。

なかでも「テセントリク(一般名:アテゾリズマブ)」は、成長著しい免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の市場において、メルクの「キイトルーダ」、小野薬品工業の「オプジーボ」に次いで3番目にシェアの高い薬剤です。適応拡大で新しい市場を順調に開拓していることから、国内外におけるロシュ及び中外製薬の成長を牽引することが期待されます。

多くのグローバル企業がいわゆる「2012年問題(パテント・クリフ)」に悩まされたなかでも、ロシュは増収基調を維持する数少ない製薬会社の一つとなっており、近年は前述の抗がん剤に加えて、「タミフル(抗インフルエンザ薬)」、「ジアゼパム(抗不安薬)」、「オクレリズマブ(多発性硬化症治療薬)」、「アレセンサ(ALK阻害薬)」、「テセントリク(免疫ポイント阻害薬)」が大幅に売り上げを伸ばしています。

ロシュは新薬の研究開発費が常に世界トップクラスで、強みであるオンコロジーや神経精神の領域を中心に毎年100億ドル以上を投じています。2021年の研究開発費は161億ドルとダントツの1位(国内最大手の武田薬品工業が47億ドル)となっています。売上高に対する研究開発費の比率も20%を超えています。

ロシュの2020年の売上高は約6兆7000億円。前年までグロバール売り上げの上位を占めていた三大抗体医薬の「アバスチン」、「リツキサン」、「ハーセプチン」はいずれも30%前後の売り上げ減となりましたが、「アクテムラ」や「ヘムライブラ」がともに20%以上の増加を示し、コロナ特需でCOVID-19に対応する分子診断薬の売り上げは約200%増となりました。

ロシュの主力製品(売上順)
医薬品名 対象領域 売上高(21年3月期:単位は億スイスフラン)
アバスチン
(一般名:ベバシズマブ)
がん 50
Ocrevus
(一般名:オクレリズマブ)
43
リツキサン
(一般名:リツキシマブ)
42
Perjeta
(一般名:ペルツズマブ)
39
ハーセプチン
(一般名:トラスツズマブ)
37
アクテムラ
(一般名:トシリズマブ)
29
テセントリク
(一般名:アテゾリズマブ)
27
ヘムライブラ
(一般名:エミシズマブ)
22
Xolair 喘息、アレルギー性鼻炎 19

バイオ医薬品の特許切れで注目されるバイオシミラー(BS:バイオ後続品)とは

ロシュが注力している「バイオ医薬品」は、がんや自己免疫疾患治療における有効性や安全性が確認され、新薬に占める割合も年々増加しています。しかし、バイオ医薬品は製造工程が複雑で高度な技術を要するため総じて薬価が高くなり、患者への経済的負担の増加や医療費高騰の原因ともなっていました。

このような状況のなか注目されているのが、バイオ医薬品の特許期間が終了した後に製造されるバイオシミラー(BS:バイオ後続品)、いわばバイオ医薬品のジェネリック医薬品です。ロシュの主力製品である「ハーセプチン」は、グローブる市場の売上で同社と熾烈な競争を繰り広げているファイザーが、「リツキサン」についてはノバルティス・ファーマがそれぞれバイオシミラーを販売しています。

従来の医薬品と異なり、仕組みが複雑なバイオ医薬品の後発品を生産・販売できるのは専門知識を持つ大手製薬会社に限られるため、まだまだ参入障壁が高いのが現状です。逆に当初は後発薬市場に参入する可能性が低いといわれていた大手製薬会社がバイオシミラーの開発に積極的になった理由もここにあります。

診療報酬改定でも「バイオ後続品導入初期加算」が新設され、政府も医療機関がバイオシミラーを積極的に処方することをインセンティブで後押ししており、バイオシミラーが普及しやすい環境が整ってきました。

10年前のロシュ:リツキサンとハーセプチンの売り上げが好調

従来、ロシュの最大製品は大腸がんに加えて、乳がん、肺がん、卵巣がんなどの効能追加が行われてきた抗がん薬「アバスチン」でしたが、FDA(アメリカ食品医薬品局)が同国での乳がんの承認を取り消した影響がやや懸念されます。

一方、非ホジキンリンパ腫、悪性リンパ腫、慢性リンパ性白血病、リウマチなどに承認されている「リツキサン」の世界売上は好調で、アバスチンを抜き同社の最大製品に成長しました。「ハーセプチン」も新興国市場を中心に売上が拡大しており、先進国市場でも胃がんの効能追加により堅調を維持しています。

ロシュの新製品で最も売上が伸びているのは抗リウマチ薬「アクテムラ」で、2011年の世界売上は75%増加で540億円を超えました。アメリカでは前年比188%となっており、2012年には「ファーストライン治療」の適応が追加承認されたため、売上はさらに伸びる見通しとなっています。メラノーマ(悪性黒色腫)治療薬「ゼルボラフ」はアメリカで承認後、ヨーロッパを中心に40カ国以上で承認され、2012年度は200億円を超える売上となりそうです。

HER2陽性転移再発乳がん治療薬「パージェタ(一般名:ペルツズマブ)」がアメリカで2012年6月に承認され、日本でも2013年6月に承認されました。同じ乳がん領域ではさらに「T-DM1」が申請段階にあります。同剤は抗体医薬品ハーセプチンに強力な化学療法剤を組みあわせた抗体・薬物複合体(ADC)で、優れた臨床試験成績を示しています。

なお、ロシュが開発を進めていた循環器・代謝系の糖尿病治療薬「aleglitazar」は、武田薬品の「アクトス」と同様のPPAR-γ作動薬で、PPAR-αに対する作用も注目されていましたが、安全性に問題があるとして第三相試験を中止しました。