世界初のプロスタグランジン医薬品「プロスタルモンF」を皮切りに、トロンボキサン合成酵素阻害薬「カタクロット」、気管支喘息治療薬「オノン」などの画期的な新薬を相次いで開発してきた小野薬品工業。
同社は創業当初からオープンイノベーション(自他問わず柔軟にリソースを活用し、市場機会の拡大を目指す)を実践しており、売上高に占める研究開発費の割合が国内製薬会社の中でトップクラスです。その方針が結実したのが、12年ぶりの自社開発の新薬にして、小野薬品工業を中堅企業から国内トップ10の企業へと躍進させた「オプジーボ(一般名:ニボルマブ)」の誕生です。
2014年に発売し、今や小野薬品工業の代名詞となった「オプジーボ」は、後にノーベル医学生理学賞を受賞する本庶佑(京都大特別教授)の研究成果から誕生した免疫チェックポイント阻害薬(※仕組みは後述)で、当初はメラノーマ(悪性黒色腫)で適応を受けて発売されましたが、国内外で適応は合計15にまで拡大しています。
国内では競合他社製品の登場や、薬価が高いとして既に3度の再算定を受け、発売当初と比べて76%も下がりましたが、適応拡大による患者数の増加もあり、売上高は約1,300億円にまで増加しました。オプジーボがもたらす潤沢な資金を更なる研究開発に注入し小野薬品工業が得意とするオンコロジー領域の更なる充実を目指しています。
新薬の開発に重点をおいてきたことから収益率は依然として高く、売上高経常利益率は、現在でも20%を超える水準を保っています(上場製薬企業の平均は14%前後)。
現在の小野薬品工業を支える医薬品はは、オプジーボのほかにも、糖尿病治療薬「グラクティブ」、糖尿病治療薬「フォシーガ」、関節リウマチ治療薬「オレンシア」などが挙げられます。「フォシーガ」は、糖尿病治療薬として承認を受けた後に慢性心不全と慢性腎臓病(CKD)の適応追加が承認されており、新たな市場開拓で成長が期待されます。
小野薬品工業の主力製品(売上順) | ||
医薬品名 | 対象領域 | 売上高(21年3月期:単位は億円) |
オプジーボ | がん(国内8、海外7) | 988 |
グラクティブ | 糖尿病 | 254 |
フォシーガ | 〃 | 224 |
オレンシア | 関節リウマチ | 219 |
パーサビブ | 副甲状腺機能亢進症 | 81 |
カイプロリス | 多発性骨髄腫 | 71 |
リバスタッチ | アルツハイマー型認知症 | 66 |
オパルモン | 虚血性諸症状 | 55 |
オノアクト | 頻脈性不整脈 | 47 |
プロイメンド | (制吐剤) | 26 |
ノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学の本庶佑特別教授が北尾吉孝(SBIホールディングス代表取締役会長)氏の対談番組に出演した際の動画。中国では大学の研究を製薬企業が丸抱えして、新薬として製品化できた場合には収益の4割をロイヤリティとして大学側が受け取ることができるので、大学発の医薬品ベンチャーが活発というお話です。
現状、日本では大学側が研究者に魅力的な環境(金銭面も含む)を十分に提供できていないので、若い研究者の数が減少傾向にあり、本庶氏は強い危機感を持っておられます。
なお、本庶氏と小野薬品工業の「オプジーボ」の特許料支払いをめぐる係争は、同社が、京都大学に新設される「小野薬品・本庶研究基金」に230億円を寄付するなど、総額280億円を支出することで和解に至りました。
正常な細胞は、分裂・増殖を繰り返す細胞数を一定にコントロールすることができますが、がん細胞はブレーキが効かず異常な分裂と増殖を繰り返してしまいます。健康な人の体の中でも細胞がコピーミスを起こし、日々がん細胞が生み出されていますが、体への異物を認識し排除する免疫機能の司令塔である「T細胞」ががん細胞を死滅させがんの発生を防いでいるのです。
しかし、がん細胞には正常な細胞に成りすまし、T細胞の働きを弱める機能があることがわかってきました。そうして弱体化したT細胞から生き延びたがん細胞が無限に増殖を始めるのです。このがん細胞の機能を阻害し、T細胞を活性化させて再びがん細胞を攻撃してもらう、これが「オプジーボ」に代表される「免疫チェックポイント阻害剤」の仕組みです。
人は生まれながらにしてT細胞による免疫システムを持っているので、免疫チェックポイント阻害剤は理論上は様々ながんで使用できるとされており、オプジーボを開発した小野薬品工業をはじめとする製薬企業はあらゆるがんを対象にした治験を同時に行っています。免疫チェックポイント阻害剤はオプジーボを含め以下の6剤が発売されています。
薬の種類 | 製品名(一般名) |
PD-1阻害薬 | オプジーボ(ニボルマブ) |
キイトルーダ(ペムブロリズマブ) | |
CTLA-4阻害薬 | ヤーポイ(イピリムマブ) |
PDL1阻害薬 | イミフィンジ(ヂュバルマブ) |
テセントリシク(アテゾリズマブ) | |
バペンチオ(アベルマブ) |
2010年度は後発品の影響や薬価改定時の長期収載品目の追加引き下げ等の影響で、自社創製品である「オパルモン」、「オノンカプセル」、「キネダック」、「フオイパン」、「オノンドライシロップ」の主要5品目の合計売上高は12%減少の133億円となりました。
しかし、2009年に4月発売の骨粗鬆症治療薬「リカルボン」、同年12月発売の2型糖尿病治療薬「グラクティブ」、同じく12月発売の抗悪性腫瘍薬投与に伴う悪心・嘔吐治療薬「イメンドカプセル」の増収で補ったため、全体の売上高は0.5%減収にとどまりました。
グラクティブは「ジャヌビア(MSD)」とともに日本初のDPP-4阻害薬で、食後高血糖を比較的早期に是正し、単独使用では低血糖が起こりにくいなど、有効性と安全性のバランスが評価され急速に市場に浸透しています。
イメンドカプセルは急性期だけでなく、既存療法でコントロールが不十分であった遅発性の悪心・嘔吐に対しても優れた有効性を持ちます。なお剤形追加となる「プロイメンド点滴静注用」が2011年12月に発売、小児への効能追加が申請段階にあります。
また、2011年は7月にノバルティス・ファーマと共同開発した貼付剤のアルツハイマー病治療薬「リバスタッチパッチ」、9月に月1回投与製剤である「リカルボン錠50mg」、冠動脈CTにおける描出能改善薬「コアベータ静注用」など、日本初の剤形・適応となる新薬の上市に成功しています。
従来の創薬スタイルは特定の疾患領域を対象とせず、プロスタグランジンなどの生理活性脂質や酵素研究から創製された化合物が有効性を示す疾患を探索、製品化する「化合物オリエント」という独自モデルを追及していましたが、近年は並行して患者ニーズの対応として、がんを重点分野とした開発・導入を活発化しています。
がん領域の開発品目の特徴として、抗がん薬周辺領域の厚みが挙げられます。イメンドカプセルに続き、フェーズ2にオピオイド投与難治性便秘治療薬NO-3849、がん性悪液質治療薬ONO-7643、フェーズ1二血小板減少症治療薬ONO-7746があります。
周辺領域を含めた抗がん剤領域の積極的なライセンス戦略を実施し、2010年は膵がん治療薬ONO-7506、0月にはOnyx Pharmaceuticalsから多発性骨髄腫治療薬カーフィルゾミブ、2011年3月にはオンコセラピーサイエンスと全がん種を対象とした治療薬ペプチドワクチンを導入しました。
共同開発品目では国内フェーズ2として、ブリストル・マイヤーズと共同開発の抗PD-1抗体ONO-4538/BMS-936558が腎細胞がん対象として、2011年10月にメルク・セロノーへ導出した多発性硬化症治療薬ONO-4641のクロスライセンスで獲得したがん治療ワクチンONO-7164/EMD531444が非小細胞肺がんで進展しています。