どんなに効能が高く、副作用が少ない医薬品が開発されようとも、医師をはじめとする医療従事者が医薬品に関する正しい知識を基に適切な判断を行って患者に提供されない限り意味をなしません。
そこで製薬企業には、疾患領域として幅広い医療知識を有した社員を配置し、医師や薬剤師からの自社製品に関する問い合わせに対応したり、MRからの学術的な問い合わせに対応したりするなど、医療情報の提供を行う「学術部」という部署があります。
学術部は、MR用の販促ツールとして、薬の作用に関するメカニズムの解説や服用方法、副作用の情報などを記載する冊子の作成をしています。また製品認知度を高めるために医師や薬剤師を対象とした製品説明会で講演者を務めることもあります。さらに、治療薬の研究発表の場である学会の主催・後援なども行っており、学会で後援や論文発表を行う医師や研究者の資料作成にもMRと協力して携わっています。
さらに、医師の誰もがデスクにパソコンを置くようになった近年は、インターネットを介して医療情報をタイムリーに配信するサービスにも力を入れています。最新の情報を迅速に提供するために、各製薬企業は学術部の組織を拡大し、活字媒体の作成を主な業務としていた時代に比べて、より活動性の富んだ部門に変化しつつあり、それに伴い学術部の重要性も再認識されるようになってきています。
業務を進める上で最新の医療情報に精通することが求められる学術部の担当者は、国内は勿論、海外の文献、研究資料を日常的に読む必要があるため、英語力が問われると同時に、それを医薬品の添付文章や学会資料、医療従事者向けのHPコンテンツ等に分かりやすくまとめる能力も問われます。
2013年に承認・販売が予想される新薬で関係者の関心が特に高いものとしては、ファイザーが開発・申請している関節リウマチ(RA)治療薬の「トファシチニブ」が挙げられます。米国で既に承認されているこのJAK(ヤヌスキナーゼ)阻害剤は、単独療法、あるいはメトトレキサート(MTX)・他の生物学的製剤でないRA治療薬との併用療法で投与できます。
RA治療薬としては十数年振りの経口剤の登場ということでインパクトは強いですが、1日2回の服用のため、注射剤の生物学的製剤と比較して投与回数が多くなるのがデメリットです。ファイザーは国内でRA治療薬「エンブレル」を武田薬品と共同販促を展開しており、「トファシチニブ」でも両社による共同販促を行う予定です。
次に注目されるのが、ブリストル・マイヤーズとファイザーが共同開発した抗凝固薬「エリキュース」です。同剤は活性化血液凝固第Ⅹ因子可逆的に阻害します。適応は「非弁膜性心房細動患者の虚血性脳卒中・全身性塞栓症の発症抑制」となっています。
新生代の経口凝固薬としては、バイエルの「イグザレルト」、日本ベーリンガーの「パラザキサ」が販売されていますが、エリキュースはワルファリンに対して、脳卒中の発症抑制、大出血発現率の低下、死亡率の低下などの面で優越性が証明された初の薬剤とされています。
高脂血症治療薬では、2013年1月に発売された武田薬品の「ロトリガ」への注目度が高くなっています。持田製薬の「エパデール」を主成分とするEPAに、DHAを加えた国内初の薬剤となります。同社では、「スタチン」を服用しても中性脂肪が高値で心血管疾患のリスクが残る患者に焦点を当てた情報提供を手掛ける姿勢です。単独処方が多い「エパデール」と異なる市場の開拓により、高脂血症の市場規模全体の拡大に繋がるのではと期待する声も聞かれます。
市場シェアの争奪が激しさを増す慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療薬では、ノバルティスファーマが開発した長時間作用性β2刺激剤(LABA)インダカテロールと長時間作用性抗コリン剤(LAMA)グリコピロニウムの配合剤「QVA149(開発コード)」が、国内のLABA/LAMA配合剤の先駆けになると見られています。インダカテロールは「オンブレス」、グリコピロニウムは「シーブリ」として、既に単剤として販売されています。
HIV治療薬ではJT(日本たばこ)が創製したエルビテグラビルを含む配合剤が登場する見通しです。同剤は米国ですでに承引されていますが、同社が国内で自社そう製品を申請するのは今回が初めてで、承認取得後は子会社の鳥居薬品が販売を手掛けます。
現在のHIV治療は多剤併用療法が一般的ですが、この配合剤が承認されれば国内で唯一、1日1回1錠の服用で有効性を示す治療薬となり、患者の服用利便性の向上などが向上すると期待されています。